【15冊目】日本でも起こるかもしれない⁉ネット通販と物流に頼る社会の弱点と広がる収入格差に焦点をあてた衝撃の1冊「バルス」(楡周平)

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あらすじ

世界最大ネット通販会社《スロット》は、極限に達した物流システムに支えられていた。生命線の宅配便トラックがテロの標的になった時、日本中が機能不全に陥る。格差社会への不満を抱えた「バルス」と名乗る人物による犯行声明がマスコミに届き、次の犯行予告が伝えられた。宅配会社は荷物の受け付けを中止すると、それに伴いネット通販会社の出荷も停止、あらゆる産業で事業が滞りはじめた。バルスは予想外の要求を突きつける!

amazonより

☆こんな方におススメ☆

*経済問題に関わる事件と謎解きに興味がある方

*日本の産業問題や経済格差について考えたい方

便利なネット通販に潜むかもしれない社会の弱点?

今、世界でも頻繁に使われているネット通販。日本でもほどんどの人が1回は利用したことがあるかもしれません。この作品はネット通販が全国に広がり、経済の中で支配的な役割を果たす中で発生した「テロ」を描いています。

一方でネット通販は何によって成り立っているでしょうか?それは物流です。
安定した物流体制があってこそ、注文された商品が消費者に遅延なく届き、その便利さがさらにネット通販の利用を加速させるというスパイラルになっています。

確かに今は新型コロナウイルスの影響もあり、ネット通販とそれに関連する物流は大きな注目を集め、経済的なウェイトもかなり大きくなっています。ですがその一方で、そこに働く労働者(特に非正規労働者)の労働環境や労働条件の過酷さはたびたび取り上げられるようになっています。

今作ではそのような非正規労働者の困窮や収入格差が引き金となり、ネット通販を支える物流を狙ったテロが起こされます。
それはまさに物流によって支えられるネット通販のアキレス腱を狙った行動であり、ひいてはネット通販に大きく依存し始めている日本経済の弱点をも狙った行為でした。

実際に「こんなテロが起こるかもしれない」という臨場感

テロの手法としては運送車の荷物の中に発火装置(周りの荷物が燃える程度のもの)を仕込み、極力人を傷つけずに運送網を麻痺させようとするものです。これによってより重大なテロの発生を予想させることで、運送網をストップさせてネット通販の機能を奪おうとします。

実際にはこのような手段で運送網を完全にストップさせ、経済を揺るがすというのは非現実的だという方もいらっしゃると思います。僕も現実的に考えると、すぐに事件の捜査が進み犯人の特定が行われ、ネット通販や運送会社も対策を講ずると思います。

そこでもう1つの大きな今作の軸となっている「非正規労働者の困窮や経済格差」が作品に臨場感を付け加えます。不満を抱いた労働者や国民が連鎖的に事件を起こしたり、模倣犯が発生するという可能性が描かれます。

確かに非正規労働者の問題や経済格差は現実でも大きな社会問題となっており、多くの労働者が社会制度に不満を抱いていることはさまさまな調査で明らかです。

よって「ネット通販に打撃を与えるため、物流をストップさせる」→「物流をストップさせるには荷物の一部に細工をして不安を煽る」という一見単純な手法が社会的な不満によって補完され、「こんなテロが実際に起こる可能性は否定できない」という臨場感を生み出していると感じました。

関連作「ドッグファイト」も楽しめます

今作は経済問題に詳しく、丹念に取材や執筆を続けてきた作者ならではの場面設定と描写が楽しめます。日本でもほとんどの人が利用し始め、今後より多くのウェイトを占めるであろうネット通販という身近な題材を選んでいることで、より多くの人が自分に関係のある作品として入り込めると思います。

このバルスを読んだ後、同じようにネット通販と運送会社をテーマに運送会社社員の視点から物流のことを描いた作品「ドッグファイト」も読んでみました。
こちらは世界的ネット通販会社の超合理的経営方針の下で、運送会社がそれに立ち向かい物流の覇権をめぐる争いを繰り広げるという内容になっています。

日本の買い物難民やさびれていく商店街の問題、地域のあり方にもふれた作品にもなっていますので併せて読むととても楽しめると思います。


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