【12冊目】縁結び神社を舞台にしたほろ苦い恋愛×青春×ミステリー「境内ではお静かに~縁結び神社の事件帖~」(天祢涼)

スポンサーリンク

あらすじ

大学を中退した坂本壮馬は、横浜にある縁結びのパワースポットとして人気の源神社で働くことに。教育係は、参拝者以外に笑顔を見せない、凛とした16歳の巫女・久遠雫。二人は神社で起こる事件や揉め事の解決に駆り出されるうち距離を縮めるが、やがて雫の過去が明らかになり――。由緒ある神社を舞台にしたミステリー、読めば、縁結びのご利益があるかも!?

文庫本開設より

☆こんな方におススメ☆

*神社まわりが大好きな方

*少し切ない恋愛や青春模様、そしてミステリーを読んでみたい方

縁結び神社で起こる恋愛や青春、日常をめぐるミステリー

本作は表題の「境内ではお静かに」を第1章(作中では第一帖)に、5つの章からなる連作ミステリーです。

主人公の坂本壮馬はあるきっかけで大学を中退し、兄が神職を務める源神社で働いて(働かされて?)います。
教育係の久遠雫は16歳にして絶世の美女という巫女さんですが、参拝者の前以外では全く笑顔を見せないというミステリアスな設定となっています。

しかも壮馬は神社で働いているにもかかわらず、神様を信じず神社や祭事の必要性に疑問を持っているという不思議な人物です(後にその信心のなさが重要な伏線となるのですが)

壮馬らが働く源神社は縁結びのパワースポットや安産祈願にご利益があり、源義経をまつっています。

この縁結びやご利益をめぐってさまざまなトラブルが神社に舞い込みます。「境内ではお静かに」というように騒音トラブルや管理する神社の移転トラブル、そして恋愛や夫婦のトラブルなど。

これらのトラブルを推理力は抜群だが、人の気持ちを察しきれない雫と推理力はイマイチだが、人の気持ちが分かる壮馬のコンビが試行錯誤しながら解決していく物語です。

張り巡らされた切ない伏線と悲しく優しいウソ

前作「希望が死んだ夜に」でもそうでしたが作者の天祢涼さんは切ない伏線をいろんなところに配置し、優しく見事に回収して後半で一気に描いていくのが上手いような気がします。

一例を挙げれば、主人公・壮馬は神や神社を信じない「信心ゼロ」の青年なのですが、それに至る背景には、尊敬する先輩が自殺してしまうという過去を持ち、「死んだ人をまつってご利益を得る」という「死者を利用する」ような仕組みに反発を持っていることです。

しかし最後には苦しむ雫を救うために、自らも死者を利用して優しいウソをつき、トラブルを解決しています。
巻末の解説にもありますが、「死者のエピソードを利用して今を生きる人に都合のいい解釈をする」という手法はミステリーなど近代文学の中では枚挙にいとまがありません。

そのタブーというか、なかなか踏み込みづらいものにズバリと切り込み、散りばめた伏線を回収しながらも読者にもしっかりと考えさせるという作者の手法は上手いし、自分の立場に置き換えて考えさせられます。

印象に残るフレーズも多い

「神さまはいません。少なくとも人の私怨を晴らしてくれるような、暇な神さまは」

「十か月も悩んだなら、いい加減な気持ちではないでしょう。自分の行動を、いい加減な言葉で総括しないでください」

いつも美少女ではあるけれど、いまはそれ以上に―凶暴なまでに美しく見えた。

まとめ

推理力はあるが人の気持ちが分からない雫、その逆の壮馬。2人はとてもいいコンビだったし、お互い足りない部分を補い合ったからこそ上手く事件を解決し、人々を救っていけたのだと思います。

また事件というのは謎を解いても、人を救うためには当事者がなぜそのような行動を取ったのか、どういう思いだったのかを推察し、適切なフォローをしないと結局当事者たちは救われません。
雫が人の気持ちを知ることの大切さ、難しさに悩みながらも壮馬と協力し、ともに歩んだのも感慨深いものがありました。

本作はさっそくですが、来月(2020年2月)に続編の「境内ではお静かに~七夕祭りの事件帖~」が発刊されるそうでぜひ期待したいところです。

にほんブログ村 本ブログ
にほんブログ村

↑にほんブログ村さんに参加しています。ぜひ応援よろしくお願いします☆

タイトルとURLをコピーしました