【11冊目】今年2月から映画上映☆新しい記憶をとどめて置けなくなった女性とそれを支える男性の切なく、温かいストーリー「静かな雨」(宮下奈都)

「羊と鋼の森」で本屋大賞を受賞した人気作家・宮下奈都さんのデビュー作。

今年2月7日からは映画として全国で上映される切なく、温かいストーリーです。

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あらすじ

会社が潰れた日、パチンコ屋の裏の駐車場で、やたらと美味しいたいやき屋を見つけた行助。そこは、こよみさんという、まっすぐな目をした可愛い女の子が一人で経営するたいやき屋だった。行助は新たに大学の研究室の助手の働き口を見つけ、そのたいやき屋に通ううちにこよみさんと親しくなり、デートを繰り返すようになる。
だがある朝、こよみさんは交通事故の巻き添えで、意識不明になってしまう。家族のいないこよみさんのために、行助は毎日病院に通う。三月と三日経った日、奇跡的に意識を取り戻したこよみさんだが、事故の後遺症の高次脳機能障害で、短期間しか新しい記憶を留めておけないようになっていた。
二人は一緒に住むようになるが、こよみさんは、その日の出来事を覚えていられない。だが、脳に記憶が刻まれなくなっても、日々が何も残していかないわけではない。忘れても忘れても、二人の中には何かが育ち、ふたつの世界は少しずつ重なっていく。それで、ふたりは十分だったーー。

ブクログ

全体的に優しく、淡々と紡がれていく文章ですが、決して単調ではなく情景が見える表現と登場人物の背景を感じさせる奥深さがありました。

物語は主人公・行助(ゆきすけ)の会社が倒産し街をさまよっていると、やたらと美味しいたい焼き屋を見つけ、そこを経営する美しい女性のこよみと出会うことから始まります。

そこから少し行助とこよみが関係を深めていく様子や淡い恋模様が描かれますが、突然こよみが事故にあい、意識不明となってしまうこと、その後目を覚ましたものの事故以前の記憶しかなく、新しく記憶ができない脳障害を負ってしまったという悲しい展開となります。

その後、行助とこよみは同棲をはじめ、行助は記憶ができないこよみを支えながら日常生活を送っていきます。しかしやはりその生活には様々な困難や周囲との関係で難しい面もたくさんあり、一筋縄ではいきません。

それでも記憶が残っていかない反面、2人の間には何か不思議な、特別な何かが刻まれていき育っていきました。時には深く知らなかったお互いの過去や思いを紡ぎながら、2人の世界が少しずつ重なっていって・・・
「それで2人は十分だった」という結びでストーリーは幕を閉じます。

切なくそれでも温かく、力強いストーリー

「新しく記憶ができない。その日のことは次の日には忘れてしまう」という思い枷を負った2人ですが、事故前までの記憶は明確にあり、何事もなくたい焼き屋も続けていますし、はた目から見ると特に以前と変わったように見えません。

「記憶ができない」困難のほとんどを行助が背負うことになりますが、その姿にまず心を打たれました。当然、時には苛立つ様子も描かれていましたが、こよみの過去の記憶や現状をしっかりと見据え、支え続ける姿に心が温かくなりました。

その中で記憶が失われていくとしても、2人の間には特別な何かが育っていることに気づき、2人の世界がしっかりと重なっていく様子が最後に余韻を残すように描かれます。
2人のこれからの素敵な生活と幸せを願わずにはいられません。

淡々としたストーリーの中に心打つ文章がある

全体的に淡々と進んでいくストーリーですが、創り手として心を打たれる文章がところどころにあったかなと思います。

「だけど、新しいものやめずらしいものにたくさん会うことだけが世界を広げるわけじゃない。ひとつのことにどれだけ深くかかわれるかがその人の世界の深さにつながるんだとあたしは思う」

こよみ

大学に進学すべきかを相談してきた高校生に言ったこよみの言葉。
いろんなことを知り、経験することは大事だが、1つのことをいかに極めるかというのもその人の深みを決める大事な要素になるということ。
フォトグラファーという職人にも通ずる言葉だと思いました。

「そうでないと手に入らなかったときに困るから。自分以外のものが原因でつくれないなんて嫌でしょう。いつでもどこででもつくれるっていうのが、あたしの腕」

こよみ

こよみの作るたい焼きがあまりに美味しいので、材料や特別な方法を使っているのかと聞かれた時のこよみの言葉。
特別なものは何も作っていないのだが、それに代わる工夫と腕を持っているらしい。
機材や道具じゃなくてテクニックと感性で勝負するというのはフォトグラファーとしても大切なこと。

映画が楽しみな作品

こちらの作品を原作に2月7日から映画が全国で上映されるそうです。
乃木坂46を卒業した衛藤美彩さんが初映画・初主演で出演されていることでも注目を集めています。

キャストを見てもかなり深みのある映画になりそうで期待していますが、個人的には小説を読んだ時のこよみのイメージと以前から知っている衛藤さんのイメージがかなりあっている点が注目です。

地方から出てきて努力を重ねながら成功した点、美しさと儚さの奥に決して屈することのない強さを持っている点など、こよみと衛藤さんが重なる部分がかなり多いと思っています。

こちらでも上映されるようなので、ぜひ見に行けたらと思います。

↓映画が上映されました

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