同級生を殺害したとして14歳の女子中学生が逮捕された。
彼女は犯行を認めつつも「なぜ同級生を殺したのか」という理由を一切語らない。
「あなたには何もわからない」―。動機を必死に探す刑事たちは彼女を取り巻く闇を明らかにできるのか?
本屋大賞2019の発掘本部門で最多得票を獲得し、注目を集めている1冊。
ミステリーや警察小説として読みごたえがありつつも、 今の日本が抱える子どもの貧困、生活保護、福祉という社会問題に深く切り込み、 各登場人物の生い立ちや言動から多角的に捉え、読者を揺さぶり、深く考えさせます。
「今は何の希望もないかもしれない。でも君は生きなくてはならない」―。
最後に問いかけられるメッセージにあなたはどう答えるでしょうか?
☆こんな方におススメ☆
*社会保障や福祉、貧困の問題に興味を持っている方。
*警察小説やミステリーものが好きな方。
あらすじと見どころ
14歳の女子中学生・冬野ネガが同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕されます。
中学生が同級生を殺害するというショッキングな事件。
その背景や動機を警察が解き明かそうとしますが、ネガは取り調べを行う刑事に対し「あなたには何もわからない」と口を閉ざすのみ。
なぜ少女は殺されたのか?
刑事たちは必至でネガの家庭や学校での生活、のぞみや周りの人たちとの関係を追いかけますが、徐々に明らかになるのは悲しい貧困の連鎖とこの社会の闇の部分でした。
多くの読者が主人公の刑事の1人・真壁の立場に共感または逆に嫌悪しつつ物語を読み進めることになると思います。
真壁自身も幼少期に貧困で苦しみながらも努力で警察官になった経験を持っています。
そんな彼だからこそ貧困は自らの力で克服するもの、できるものと信じ、当初はネガが置かれた社会の闇に気づくことができません。
同じく捜査にあたる刑事の沖田は生活安全課という殺人事件と無関係の部署に所属していますが、少年犯罪をいくつも解決しています。ネガやのぞみの生活を「想像」しながら事件の背景に迫ります。
物語が進むにつれ、沖田らの考えに触れる中で真壁自身の貧困に対する考え方に変化が見られるようになります。
おそらくここで読者も深く考えさせられることになるのではないでしょうか?
貧困は珍しくない。どんな過酷な状況でも、努力すれば道は開ける。「母に楽をさせたい」という一心で這い上がってきた俺が言うのだから間違いない―そう思っていた。
「希望が死んだ夜に」P167
しかし「母に楽をさせたい」ということは、「母は苦労している」ということ。
そして俺は「母に楽をさせたい」という一心で、勉強しかしてこなかった。
母にだけ苦労をかけて、自分は努力する余裕があったのだ。
努力すれば報われて、明るい未来が開けると信じられたから―。
努力だけではどうにもならないほどの深さを持った社会の闇、努力する余裕さえも奪われた人がいること、もがいても抜け出せない貧困の連鎖―。
そんな悲しい闇にネガやのぞみたちが覆われ、この社会全体が覆われていることを事件を明らかにしていく中で真壁は認識していくことになります。
ネガやのぞみ、その家族たちの行動や生活をほんの表面だけしか理解せず、実はその奥底にどす黒い悲しみと社会の深刻さが眠っていたことを知った真壁の受けた衝撃はものすごいものだったでしょう。
本作で描かれている社会の裏側を見るとき、読者の皆さんは何を思われるでしょうか?
あと余談ですが、文庫の表紙の写真のテイストにどこか見覚えがあると思ったら、「スクールガールズコンプレックス」「ソラリーマン」などで有名な青山裕企さんが撮影されたものでした。
好きなフォトグラファーさんの写真でしたし、作品のイメージにもぴったりだったのでビジュアル面でも楽しませていただきました。
☆これまで読んだ本は「読書メーター」&「ブクログ」にまとめています☆
にほんブログ村
↑にほんブログ村さんに参加しています。ぜひ応援よろしくお願いします☆